寒かった。

寒かった。

ここのところの私の口癖である。

いや、ここ数日の寒波というのは並々ならぬものらしいから、きっと我輩以外の大勢も口々にそう零しているのであろうと、用意に予測はつくが。

 

それにしても、寒かった。

 

一日の暮れ、とっぷりと夜も深まった頃合いに、口からそればかりを零しながら、半纏に包まり、湯たんぽを用意し、部屋に暖房をきかせ、寝床があたたまるのを待っている。本当はゆるりと風呂にも入りたいところだが、あいにく、寒さのあまりに発熱を伴う風邪を引いてしまったものだから諦めた。無念だ。そしていつも、湯たんぽを準備してから己は気づく。

布団があたたまるまで、しばらく時間がかかるじゃないか。

困る、というより、抜けていた、という実感のほうが先走る。いやはや、抜けていた。もはや日課にも等しい行動であるのに、いつも、そういつもなのだ。いつも湯たんぽが布団を温めきるのに時間がかかるのを失念し、湯たんぽが出来上がりさえすれば、寒かったの言葉を置き去りに快適な布団でまどろむことができるとすっかり思い込んでしまう。

まったく、どうして毎日繰り返していても忘れてしまうのか。俺は我が馬鹿らしくて仕方がない。本当に馬鹿らしくて仕方がないのだが、しかしかといって自分が平身低頭を尽くし不出来を嘆いてみせれば布団が即座にあたたまるということはなく、やはりこれはこれで仕方がないことなのだと納得する。せざるを得ない。おのれ、僕。

 

そうして不意に産んでしまった消費すべき時間をやりすごして。

室温にあたたまり心凪いできた頃合いに。

ようやっと、布団はあたたかな一日の幕引きを整えてくれるのだ。

 

ああ、今日も寒かった。